「陰キャ」と言う言葉をご存じでしょうか。
いわゆる「根暗」「非リア充」「オタク」「ぼっち」「コミュ障」といった人間のマイナスイメージを総称して現代の若者の間で使われている言葉です。
こういったマイナスワードには、これまで以下のような流行り廃りがありました。
こういった言葉の変遷から、近年使われるようになった言葉が 「陰キャ」 です。
Googleトレンドというツールで、指定したキーワードのGoogleにおける検索数の推移を調べることができます。
こちらのデータによると、「ぼっち」「リア充」といった言葉はダウントレンド。
「陰キャ」は2016年ごろまでほとんど使われていませんでしたが、近年徐々に検索数を伸ばしてきました。
2018年ごろから「陰キャ」の勢いが増してきた要因は何でしょうか。
私は、この時期に登場したSNSアプリ TikTok が「陰キャ」という言葉・概念の認知拡大に寄与したのではないかと考えています。
初期のTikTokでは、 「こんなに陰キャだった私が大変身」「陰キャラ面接」 といったコンテンツが多く投稿されました。
@manbooooooooo 学校一のド陰キャ##陰キャ##陰キャラ面接 ##オススメにのりたい
♬ 陰キヤラ面接 - ミヤヂ
その他、ボーカロイド曲など一部のオタク層が楽しんでいた音楽が一般化し、
「これTiktokの曲じゃん!」
と、浅い層にも認知される事象が起こりました。
これまで、交わらざる世界であった「陰」の文化が「陽」の人達へと共有されていったのです。
TikTok以前にも、「陽キャのSNS」とされるサービスは存在しました。
「前略プロフィール」 、Twitter社の 「Vine」 、FaceBook社の 「Instagram」 などです。
これらのSNSは「身内から他人へ」と認知が広がっていくため、異なる界隈の交わりは限定的でした。
しかしTikTokには「初めから赤の他人へおすすめを行い、反応が良かった動画を次々と他の人へおすすめしていく」といった仕組みがあります。
この広がり方が根本的に異なるため、異なる界隈同士での認知が広がりやすかったのではないでしょうか。
(こういった構造のためか、初期のTikTokのコメント欄は投稿者への誹謗中傷が相次ぐ状態となっていました…)
こういった界隈での広がりを通して「陰キャ」の概念は大衆化し、これまでのパワーバランスにも変容が生じます。
「陰キャ」は一般的には蔑称、自虐で使われる言葉でした。
このような、散々な言われようだった「陰キャ」という言葉が一転、「陰キャをかっこいい」と考える層が一部で登場します。
これは、2000年代~2010年代に「オタク」文化でも同様に起こった事象です。
「自分は陰キャである」と嬉々として語り登録者を集めるYouTuberなども登場し、「陰キャ」がある種のブランドと化してしまったのです…
こういった流れに反発するように生まれたのが、「真の陰キャ」マウンティングです。
て言いながらTikTokやってる奴
ほんまもんの陰キャからしたら
お前らパリピだからな?
このような形で、自分のほうが不幸なんだ、自分のほうが陰キャなんだ、と世間に訴えかける人々が現れだしました。
かつては「リア充」こそ憧れの的であったはずなのですが、現代では蔑称であるはずの陰キャの座を求めて争いが起こる始末。
数十年前もの発信や行動すら掘り返して叩かれるような時代ともなっている現代。
何もしていない陰キャだけが最強の時代へ…
紀元前3000年ごろに成立した古代中国の陰陽思想では「この世の中のあらゆるものが互いに依存して成り立っている」と考えるそうです。
「上というものがあるから下があり、下という概念なしでは上は存在できない」
というような考え方です。
この思想では、陰の中にも陽があり、陽の中にも陰があると考えます。
陰気な性格は、それ自体が悪いとか考えてしまいがちですが、その性格にも良い面と悪い面の両方があるわけです。
陰と陽はお互いに補って全体を成しているのですから、時代の流れが、
①自分の性格を単一的に捉え落ち込む
②「私の理想の陰キャ」を掲げムキになる
のレベルから、もう一段階進歩するといいんじゃないですかね(適当)